名古屋地方裁判所 昭和58年(ヨ)1312号 決定
1 申請の理由1ないし4は当事者間に争いがない(ただし、同4のうち、被申請人が、本件仮処分申請時以降、イ号装置を製造、販売していることについては争いがある。)。
したがつて、本件特許発明の構成要件は、左記の(A)ないし(D)記載のとおりであり、その構成によりもたらされる作用効果は、左記の<1>ないし<3>記載のとおりである。
(一) 構成要件
(A) 水槽内の一端下方より他端水面上に亘つてベルトコンベヤを傾斜して配設し
(B) 水槽内に流入した汚濁水中の細砂を前記ベルトコンベヤ上に沈澱させるとともに
(C) ベルトコンベヤの上ベルト背面を加振機に連結した凹状の受金具で保持し
(D) 上ベルトの断面を凹状に湾曲させてなる細砂採取装置
(二) 作用効果
<1> ホツパー部から水槽内に汚濁水を流入させ、その中の細砂をベルトコンベヤ上に沈澱させ、かつ、そのベルトコンベヤに振動をかけることによつて細砂の粒子間隔を密にして水分の少ない凝集状態で搬出することで搬出後の水切りを不要とし、搬出後、直ちに使用場所への搬送を可能にすること
<2> 右ベルトコンベヤの振動によつて、細砂中の汚泥やゴミ等の比重の小さい不純物を水中に浮き上がらせて放流水路へオーバーフローさせ、これにより不純物のない極めて純度の高い細砂を得ることができること
<3> 装置そのものに広い面積を必要とせず安価に製作できること
以上のとおりである。
ところで、被申請人は、本件特許発明は、その出願前に日本国内で頒布された刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから無効とされるべき瑕疵がある旨主張するが、本件全疎明資料によるも、右主張に副う事実を認めることはできない。
すなわち、被申請人が提出した疎明資料のうち、本件特許出願時における公知技術として、本件特許発明に最も近いものは、実公昭五一―四九六六四号(疎乙第一四号証)及び特公昭四三―九一四二号(疎乙第一一号証)の各公報に記載されたものであるから、これらについて検討を加える。
まず、前者についてみるに、疎乙第一四号証によれば、実公昭五一―四九六六四号の実用新案公報に記載された公知技術は、原液(廃水及び汚水)中の微細粒子を振動により濾布上に、順次、沈降、堆積させ、続いて真空脱水及び圧縮脱水をする脱水濾過機に関するものであり、プール部の傾斜した底面に沿つて一端下方より他端上方(水面上)に亘つて無端状の濾布を走行させ、プール部の直下に振動機器を密着し、プール部にある原液に微振動を与えることにより原液中の固体粒子の沈降を促進し、沈降速度を加速された原液中の固体粒子は、濾布に向けて粗い粒子より順次、沈降、堆積するという作用を有すること、濾布は、プール部の平らな底面に沿つて走行するよう設置されるのであるからその横断面は一文字状であることが一応認められる。
したがつて、右公知技術の構成及びその作用効果は、振動機器は原液に微振動を与え、これにより、原液中に懸濁している固体粒子の沈降を促進させ、これを濾布面上に堆積させるというものであり、これによれば、右公知技術においては、濾布(本件特許発明における「上ベルト」に相当する。)自体は振動する必要はなく、また、右濾布に対して、本件特許発明に特有の作用効果(前記<1>ないし<3>)をもたらす振動を与える技術を開示したものとは認め難い。
また、後者の特公昭四三―九一四二号の特許公報に記載された公知技術は、疎乙第一一号証によれば、傾斜して配置したベルトコンベヤの下方に脱荷受を設け、脱荷受に振動機を装着して脱荷受に堆積した脱荷を回収ホツパへ摺落させるコンベヤの脱荷回収装置に関するものであり、陸上に傾斜して配設されたベルトコンベヤにおいて、上ベルトの横断面を凹状に湾曲させる構成を開示していることが一応認められる。しかしながら、右疎明資料によれば、右公知技術は、上ベルトを陸上(空気中)で振動させるというものであることが一応認められるから、本件特許発明に特有の作用効果(前記<1>ないし<3>)をもたらす、水面下において上ベルト背面に対し振動を与える技術を開示したものとは認め難い。
したがつて、本件特許発明は、右各公知技術の存在にもかかわらず、新規性及び進歩性を有するものというべく、他にこれを否定する疎明資料もないので、結局、被申請人の前記主張は理由がない。
2 被申請人は、本件特許発明の発明者である訴外長谷輝美が、本件特許権を共有する訴外日進油圧から本件特許発明の通常実施権の設定を受け、右長谷から、昭和五五年二月二〇日、同人の有する右通常実施権を被申請人が譲り受けた旨主張するが、これを認めるに足る疎明資料はない。
また、被申請人は、本件特許権の実質的な権利者は、右長谷であるとし、これを前提とした主張をしているが、本件全疎明資料によるも、これを認めるに足りない。
したがつて、被申請人の右主張は、いずれも理由がない。
3 イ号装置について
(一) イ号装置が本件特許発明の構成要件(A)、(D)を充足することは、当事者間に争いのないイ号装置の構成(別紙第一目録の「イ号装置説明書」の記載及びイ号図面参照)により明らかである。
(二) 被申請人は、本件特許発明の構成要件(B)につき、右要件は水槽内における汚濁水中の細砂の動きを示したものに過ぎず、構成の記載とはいえないので、本件特許発明の目的、構成及び構成要件(C)、(D)を勘案すると、右要件にいう「前記ベルトコンベヤ上」とは、「振動を与えられるベルトコンベヤの上ベルト部分」であり、右部分に汚濁水中の細砂が沈澱していく構成と解すべきである旨主張する。
しかしながら、構成要件(B)の意味するところは、「水槽内に流入した汚濁水中の細砂がベルトコンベヤ上に沈澱するように、水槽とベルトコンベヤを配置する」ということであつて、構成の記載でないとはいえず、また、ベルトコンベヤに振動を与えることに関する構成は、構成要件(C)で規定しており、そこで検討すれば足りることであり、その他、本件全疎明資料を精査しても、構成要件(B)を被申請人主張の如く限定的に解すべき根拠は見出せない。
したがつて、構成要件(B)は、その文言どおり解されるべきところ、当事者間に争いのないイ号装置の構成(別紙第一目録の「イ号装置説明書」の記載及びイ号図面参照)によれば、イ号装置が右要件を充足していることは明らかである。
(三) 被申請人は、本件特許発明の構成要件(C)につき、右要件は、ベルトコンベヤの上ベルトのうち、水槽内にあつて汚濁水中の細砂が沈澱していく部分に振動を与える構成と限定的に解すべきであると主張する。
しかしながら、右要件は、「ベルトコンベヤの上ベルト背面を加振機に連結した凹状の受金具で保持し」というものであつて、上ベルト背面の全体を加振機に連結した凹状の受金具で保持するとか、一部のみを保持するとかの限定がないこと、また、作用効果の面からみても、上ベルト背面の全体を加振機に連結した凹状の受金具で保持して上ベルトの全面を振動させても、上ベルト背面の一部のみを加振機に連結した凹状の受金具で保持して上ベルトの一部のみを振動させても、ともに本件特許発明の前記作用効果(<1>ないし<3>)がもたらされることに変わりがないと解されることからすると、被申請人主張のように、右要件を限定的に解することは相当ではない。
したがつて、右要件は、ベルトコンベヤの上ベルト背面の全体又はその一部を加振機に連結した凹状の受金具で保持する構成と解するのが相当であるから、当事者間に争いのないイ号装置の構成、すなわち、「ベルトコンベヤBの搬送面側ベルト10aの背面上部を振動発生機32に連結した凹状の振動受枠24で保持し」との構成は、右要件を充足することが明らかである。
これに対し、被申請人は、イ号装置が、ベルトコンベヤBの搬送面側ベルト10aの背面上部、すなわち、水槽内において搬送面側ベルト10a上に沈澱した砂が搬送される水面下から水面上に亘る境界部分においてのみ振動が与えられるとの右構成をとることによつて、搬送された砂を攪拌させて、そこに含まれるゴミ等の不純物を浮遊させることを目的とするものであり、本件特許発明の奏する作用効果(前記<1>)とは異なる作用効果をもたらすものである旨主張する。
しかしながら、被申請人がイ号装置の右構成によりもたらされる作用効果であると主張する点は、本件特許発明の奏する前記作用効果の一つ(前記<2>)であり、また、イ号装置が右構成をとることによつて、搬送面側ベルト10a上に沈澱した砂は粒子の間隔が密になるとの作用効果をもたらすものであること(本件特許発明の奏する前記作用効果<1>)は、被申請人が自認するところであり(別紙第一目録、「イ号装置説明書」の「3イ号装置の構成の説明」の項の「(2)作用」欄の記載参照)、両者の奏する作用効果は、同一のものと認められるから、被申請人の右主張も理由がない。
したがつて、イ号装置は、右要件を充足しているものというべきである。
以上の判断は、本件特許発明の出願時における技術水準及びその出願の経過等を参酌しても、何ら左右されない。
(四) 右の事実によれば、イ号装置は、本件特許発明の構成要件のすべてを充足しており、また、その作用効果も本件特許発明のそれと同一であるから、イ号装置は、本件特許発明の技術的範囲に属するものというべきである。
4 ロ号装置について
当事者間に争いのないロ号装置の構成(別紙第二目録の「ロ号装置説明書」の記載及びロ号図面参照)によれば、ロ号装置は、イ号装置の前記構成に、シヤワーノズルと真空吸引口を付加したものとみるのが相当であり、また、右付加されたシヤワーノズルと真空吸引口の構成がイ号装置の前記構成に加わることによつて、イ号装置の奏する作用効果とは異なる作用効果がもたらされるものとは認め難いので、前記のとおり、イ号装置が、本件特許発明の技術的範囲に属するものと解する以上、ロ号装置についても、右技術的範囲に属するものというべきである。
5 本件疎明資料によれば、申請の理由7(保全の必要性)の事実が一応認められる(なお、被申請人は、本件仮処分申請時以降、イ号装置の製造、販売はしていない旨主張するが、これを認めるに足りる疎明資料はない。)。
6 以上の次第であるから、本件仮処分申請は正当として認容する。